和辻哲郎はその著書『風土』のなかで、「人間は風土を離れて存在し得ない、風土が人間を作る。」とした。食物もまたその風土を離れて存在し得なく、風土が作物を作るのである。
つまり、風土に作られた作物によって、その土地に住む人間が形成される。食は文化なのです。
そんなことを念頭にしてスーダン人は一体何を食べてきたのか「主食」という視点でスーダンの食文化についてみていきたいと思います。
スーダンの気候と農業
スーダンは平均気温が35度を超えます。夜を入れてこの数値ですから日中の暑さはすさまじいことになります。
特に乾季は月の最高気温平均が40度を超え、人が外を歩けなくなるほどの厳しい暑さになることもあります。
年間の降雨量が非常に少なく、国土の大半が乾燥地帯となっています。
しかし、雨は少ないもののナイル川の豊富な水資源に恵まれています。このナイルの豊富な水を用いた灌漑農業が盛んにおこなわれ、暑さのイメージとは違い農業国となっています。そしてこの農業が主要な産業で国民の70%が農業に従事しています。
主な産物は、主食となっているソルガムや小麦、輸出作物の綿花や胡麻、野菜や果物が豊富に採れます。
スーダン人の主食はかつてはソルガムなどの雑穀でしたが、現在では輸入品の小麦を主食としています。
現在最も食べられている主食はパン
スーダンの食卓に並ぶ主食ベストワンはパンです。
パンは、パン屋でほとんどの家庭が買います。自家製のパンを作っている家庭を見たことがありません。パンの価格は現在1個2SDGです。日本円で5円ほどですので安く手軽に食べられるパンが人気なのがよくわかります。
写真のように豆を煮た「フール」やスープと一緒に食べるのがポピュラーです。
またパンにひよこ豆を潰して揚げたファラーフィルなどを挟んだサンドウィッチもよく食べられています。
しかし、パンがスーダンで最も食べられる主食になったの歴史は浅いです。それ以前は違うものを主食としていました。
スーダン家庭料理の主食たち
スーダンのお母さんたちが作るのはパンではない。
ここからはスーダンの伝統的家庭料理です。
キスラ
キスラは、、ソルガム(キビの一種)の粉に少しの塩をいれ、イーストをぬるま湯で溶いたものでクレープ生地のような固さに混ぜ合わせたものを、薄く焼いたものです。
調味料が入っていませんので、オクラパウダーでとろみをつけたスープやソースをかけて食べます。
キスラは隣国エチオピアのインジェラと同系列のもので、ぼそぼそして酸味があります。日本人の中には見た目も味も雑巾だと言う人もいます。
食べ始めは違和感がありますが、慣れると癖になります。
「美味しいキスラが焼ける」ことが良い妻の条件だと言われています。
右がキスラ、左はグラーサ
グラーサ
グラーサは、小麦粉に少しの塩を入れ、イーストをぬるま湯で溶かしクレープ生地のような固さに混ぜ合わせます。
イーストが少し発酵したら、焼いていきます。発酵のおかげで柔らかく仕上がります。食感は山芋入りのお好み焼きのようです。
グラーサに調味料が入っていませんので、オクラパウダーでとろみをつけたスープやソースをかけて食べます。ヨーグルトをかけても美味しいです。
キスラのような癖がないので日本人の口に合います。
アシーダ
アシーダは、ソルガム(キビの一種)の粉を水で混ぜ、鍋でよく火を入れていき、型にいれ成形したものです。
材料がキスラと同じですが、キスラがパサパサしているのに対しアシーダは滑らかな食感が特徴です。
暑いスーダンで、火の前でひたすら混ぜ続けなければならないので、かなりの重労働になります。
まとめ
スーダンは非常に暑い国ですからキッチンは高温になり、調理はかなりの重労働になります。
伝統的なグラーサやキスラ、アシーダは火の前で調理が必要です。
そこに電気オーブンの導入によってパンが大量生産が可能になると、人々は調理が楽なパンを主食としました。
しかし、スーダンのおふくろの味はやはり美味しいので、ぜひ食べに来てみてはいかがでしょうか。